『ハピネス』には、一見さりげなく配置されている様々な伏線が、物語の進行とともに鮮やかに回収されていく魅力があります。
ここでは物語の重要な伏線を時系列に沿って整理しながら、どのように謎が解き明かされていくかを詳しくご覧ください。
序盤:新薬「ネクスト」と感染の謎
物語の出発点として重要な伏線が、新薬『ネクスト』の登場とその副作用による感染でした。
これは警察特攻隊のユン・セボムたちが遭遇した暴力的な感染者が発端で、マンション内での感染拡大のカギとなります。
物語開始直後からこの新薬の副作用設定が小出しにされ、後半にかけて感染の仕組みや症状の詳細が明らかになっていきます。
中盤:マンション内の住民たちの不審な行動と身元の暴露

住民の中で感染の疑いがある人物の行動や、密かに食料を確保したり情報を操作しようとする姿に視点が移ります。
特に牧師の行動や棟代表夫妻の裏の顔といった伏線が展開され、提示された疑惑が徐々に回収されていきます。
この過程で、『誰が本当の味方か』『誰が感染者か』という緊迫感がピークに達します。
後半:狂人病の特性と感染抑制の秘密
物語の核心部分で、狂人病の詳細が徐々に解明されます。
感染者が理性を取り戻したり、痛みを感じず怪我も治癒する特殊なメカニズムや、なぜ感染した者が完全なゾンビ化をしないか、さらには感染抑制に関わる主人公らの努力が描かれます。
ここで初めて薬『ネクスト』の副作用と感染症の因果関係が完全に回収されるわけです。
クライマックス:登場人物の裏切りと『アンドリュー』の正体
物語終盤には、もったいぶっていたアンドリューの本性が明かされ、サイコパス的性質が浮き彫りになります。
アンドリューの正体と背景
アンドリュー(演:イ・ジュスン)は、当初「素性のよくわからない住人」として登場します。
常にマスクを着け、「顔に傷がある」と説明していましたが、実際にはそれは偽りで、彼の正体隠しのための偽装でした。
- 正体:実はすでに死亡した人物の名を騙ってマンションに潜入していた連続殺人犯。
- 目的:感染封鎖下のマンションで、自分の歪んだ実験や支配欲を満たすこと。
彼は、混乱状態の中で住民たちの心理を揺さぶり、疑心と対立を煽ることで支配を強めようとしていました。
そのため、表向きは穏やかで親切に見える行動(ナ・ヒョンギョンへの優しさ)を見せつつ、裏では複数の住人(ドクスン、セフン)を殺害していたのです。
殺人と操りの構図
アンドリューは単独犯というより、住人の数人を味方につけることで悪行を拡大させます。
特に以下の人物が彼に協力していました。
- 棟代表オ・ヒョンジュン
- 弁護士クク・ヘソン
- 清掃業者の夫婦
彼らは「セボムとイヒョンを排除したい」という思惑からアンドリューと手を組みます。
この同盟は一時的な利害関係によるものでした。
しかし、次第にアンドリュー自身すら制御不能な存在となっていきます。
急変する行動と改変疑惑
視聴者の間では「途中でアンドリューのキャラ設定が変更されたのでは?」という指摘もありました。
特に以下の点が一貫性を欠いて見えます。
- 初期には人助けの描写(ドンヒョンを救う場面など)があった。
- セボムたちに一時的に協力する行動も見せた。
- ナ・ヒョンギョンへの好意的な接し方と、その後の展開が繋がらない。
これらは、製作側が中盤以降のストーリー展開を「緊張感を重視したスリラー」へと再構成した可能性があるとも言われているようです。
終盤での暴走と最期
封鎖が極限状況となった最終盤、アンドリューは自らの正体を完全に現します。
彼は銃を奪い、ジョングクを撃ち、ソユンを「自分が連れていく」と発言。
完全にサイコパス的性質を露わにします。
しかし屋上でイヒョンと対峙した際、事態は一変。
感染したイヒョンが暴走し、アンドリューに襲いかかり、彼の首を噛み千切ります。
アンドリューはそのまま死亡し、狂気の連鎖を自らの死で終えることになります。
アンドリューというキャラクターの意味
アンドリューは単なる人間の悪の象徴ではなく、極限環境における人間の本性の歪みを具現化したキャラクターといえます。
感染という「外的狂気」に対し、彼は「内面の狂気」を代表する存在として描かれました。
彼の登場によって、善悪の境界が揺らぎ、マンションの住人たちは互いを信じられなくなっていきます。
その構図が、『ハピネス』というタイトルに込められた逆説的テーマ「真の幸福とは何か」――を際立たせているのではないでしょうか?
エピローグ:ウイルスの明確な終息無しとラブラインの暗示
物語の結末では、感染症そのものの完全な解決は示されず、あえて謎を残す形に。
これも伏線の一つで、『完全なハピネス=幸福』とは何かを問う余韻として回収されています。
ただし、セボムとイヒョンの関係性における回復や愛の描写がラストで暗示され、物語の人間ドラマ的側面を締めくくっています。
まとめ
『Happiness』の伏線は、大きく分けて【新薬の副作用と感染の仕組み】【住民の疑心暗鬼と裏の顔】【狂人病の特性】【裏切り者アンドリューの正体】【結末の余韻】の5つに整理できます。
これらは物語の進行に伴い丁寧に回収され、ただのゾンビホラーではない深みのある社会派サバイバルドラマとしての完成度を高めています。
伏線同士が絡み合う構造により、物語を見返すたびに新たな発見があるのも魅力ですよね。

